令和4年度入選者寄稿文

吉村卓山

祖父への恩返し

私は歴史と自然に溢れる長崎県に住んでいます。
私と詩吟の出会いは3歳の頃で、祖父の存在がなければ今日の私はなかったと言えます。
祖父の家を訪れるといつも祖父の吟詠の歌声が響いており、私はその声に興味を持ち、たびたび訪れておりました。ようやく言葉を話せるようになったばかりの私に、祖父も礼儀作法から始め、吟符付きの漢詩の意味や読み方を教えてくれたのです。歌うことが好きな私も子供ながら自分なりに工夫して、だんだんと吟詠のかたちになってきました。祖父から最初に教わったのは石川丈山作「富士山」でした。吟詠独特の節回しと母音の発声がうまく歌えず何度も泣きながら練習していたことが思い出されます。祖父も孫に対する愛情のほかに、吟詠の魅力や難しさを伝えたかったのだと思います。初めて人前で詩吟を披露したのは「敬老会」でした。あの時の緊張感と達成感は子供ながらに今でも嬉しくて、この敬老会がきっかけとなり又人前で詠いたいという意欲が芽生え、大会に出場する機会が増えていきました。
私自身、なかなか本番で自身の力を発揮出来ず、祖父からアドバイスを貰いながら挑戦し続ける日々でした。大会では他の出場者から学ぶことも多く、年齢を超えての交流もあり、良き吟友もでき、お互いに切琢磨しながら、今では吟詠を楽しんでおります。
吟詠を始めた頃から、いつか叶えたいと思っていた、私の夢は祖父とクラウン吟友会に入会し一緒に詠うという願いでした。
今年で86歳を迎える祖父は、足腰も悪く外出することも少なくなりました。入賞というかたちで恩返しがしたいと意気込み、二年越し、5度目の挑戦でした。自身の発声を改めて聞き直し、詩に込められた想いを追求することに取り組みました。今回は「九段の桜」を選曲しました。
「どのようにしたらさらに上手になるのか」「作者の想いを伝えるのにはどうすればいいか」ということを常に考え取り組みました。練習場所の公民館に何度も足を運び、所属している岳鐘会の皆さんの応援と、会派の会長でもあります田中岳藤は多忙なスケジュールにもかかわらず時間を割いて、言葉の読み方から細部まで丁寧にご指導をいただきました。
入賞当日は、練習通りの吟詠「九段の桜」を詠うことができました。
これも周囲の先生方のご指導のおかげであると感謝申し上げます。
今後の目標として、更に精進を積み重ね様々な大会での入賞、指導者として沢山のクラウン吟士を輩出することを掲げて取り組んでいきたいと思います。吟者として指導者としてもまだまだ未熟ですが、今後もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
吟詠人生、25年目の節目で、クラウン吟詠コンクールで入賞することが出来ましたこと、多くの皆様、そしてなによりも祖父に感謝いたします。
「ありがとうございました」