令和7年度入選者寄稿文

加藤千壽

詩吟の道、果てなき挑戦:クラウン吟士としての新たな決意

 私の詩吟への道のりは、祖父の力強い吟声という、心に残る記憶から始まりました。幼い頃、寝床で聞いたその声は、私にとって子守唄であり、同時に伝統文化への抗いがたい導きでした。自然な流れで詩吟の世界に身を投じて以来、私の人生は挑戦と研鑽の連続でした。関西在住時より、日本クラウン主催の吟詠コンクールには意欲的に挑戦してまいりました。全国大会出場の経験もありますが、入賞を逃した挫折が、私にとっての大きな転機となりました。それまでは、技術的な正確さの追求に一生懸命でしたが、この経験により、「技術だけでは人の心を打つことはできない」と痛感。「表現」の重要性に気づかされたのです。詩に込められた情景や感情を、いかにして声に乗せて伝えるか。それ以来、私の詩吟に対する姿勢は、型にはまった歌唱から、内面から湧き上がる感情を解放する「表現力の追求」へと劇的に変化しました。この過程では、橋本光世先生や和歌山の先生のもとでの厳しい修行、そしてジムでの詩吟部指導といった貴重な出会いと学びがありました。

 東京への移住と結婚を経た今も、詩吟への情熱は色褪せることはありません。現在は、かつて祖母が開いた流派を受け継ぎ、東京の地で活動を継続しています。これもまた、祖父母から受け継いだ大切な財産を守り、次世代に繋いでいくための責務だと感じています。

 現在の活動の中心は、自営業の傍ら、スタッフたちへの指導です。彼らと共に成長できることに、大きな喜びを感じています。「今はまだスタート地点に立ったばかり」という謙虚な姿勢を忘れず、諸先輩方からのご指導を請いながら、漢詩の奥深さや健康法としての詩吟文化の素晴らしさを、一人でも多くの後世の人々に伝え、この伝統芸能の発展に尽力したいと強く願っています。

 この度、光栄にもクラウン吟士に選ばれたことは、私にとって「新たな、そして厳しい世界」への扉が開かれたことを意味します。この重責を深く受け止めつつも、自身の人生の中にこの素晴らしい世界観が入った幸せを噛み締めています。
これからはクラウン吟士としての使命感を胸に、詩吟の普及という大義を持って、日々の生活や子育てにも励みたいと決意を新たにしています。現在の心境を正直に申しますと、まだまだ未熟であると痛感しています。しかし、恩師や諸先輩方がかけてくださる言葉の意味を、ようやく理解できるようになったという実感も得ています。

 吟詠という芸道を続けられることへの感謝と幸せを感じながら、詩吟文化の素晴らしさを世に広め、その発展に貢献できる一員であり続けることを願ってやみません。祖父から始まった私の詩吟の旅は、これからも果てしなく続いていくでしょう。