北野心岳
吟友と出会えて
この度、短歌部門では過分な賞を頂きありがとうございました。私のような未熟な者が入賞できましたのは、ひとえにこれまでご指導いただきました先輩方や吟友の皆さんの励ましがあったおかげと大変感謝しております。
10月22日、一人で会場入りした私は、不安と緊張でドキドキです。大会では「予選通過」のみを目標に日々の練習をしてきましたので、入賞を告げられた時には我が耳を疑ってしまいました。どうやら「運に後押しされた」という部分が大きいようにも思われます。
私が詩吟と出会ったのは、41歳の時。茶道吟をやりたいという茶道の師に連れられて講師宅を訪ねた時です。私の詩吟は、ここでのお茶の間から始まりました。当時は大会に出ることや、人前で吟じることなどゆめゆめ考えてもいませんでしたし、詩吟とは何と難しいものかと感じていました。ただ、大きな声を出すことには、解放感にも似た心地よい喜びがありました。茶道吟後、続く1年も「お茶の間の詩吟」として楽しんでおりました。ところが、地区の大会を見学した時に、一人の女性の吟に出会い気持ちが一転、「あんな風に吟じたい」という思いがムクムク湧いてきたのです。この出会いが、お茶の間を飛び出すきっかけとなりました。彼女は数年前、60前半の若さで病におかされ亡くなってしまいました。「これが私の最後の大会よ」と手をにぎりあってから一年後のことでした。出会いから20年、共に励まし合いながらきました。「詩吟が大好き」という彼女との想い出は、温かく、切ないものですが、素敵な出会いがあったことに感謝しています。そして、どこかで私の吟を聴いていてくれたら、と願っております。