令和6年度入選者寄稿文

東玲鶯

詩吟との出会いと再会

 私が初めて詩吟に出会ったのはまだ幼稚園に通っている頃でした。祖母が剣詩舞の師範だったので、その発表会を観に行った時の事です。しかし幼い私は初めて聴いた詩吟を『変わった歌だなあ』位にしか思わず、それよりも祖母がひらひらと振っていた大きな扇子の方に夢中でした。
 それから何度か祖母の剣詩舞の発表会を観に行く機会がありましたが、私は特に詩吟に興味を持つということもなく、成長していくにつれ海外に興味を持つようになり、高校からアメリカに留学しました。日本人が少ない地域の学校に通っていたので、クラスメイト達は日本人に興味津々で、日本語や日本の文化等について様々な質問をしてきました。しかし私は満足に答えることができず、自分が生まれ育った日本についてほとんど何も知らない事に気がついたのです。
 そんなある日、クラスメイトのひとりに「着物って素敵だよね!あの帯ってどうやって結んでるの?」と聞かれました。「着物を自分で着る事ができないからわからない」と答えると、「えっ!日本人なのに、自国の民族衣装を自分で着られないの?」と驚かれました。「着物を着たい時は、美容院とかで着せてもらってるよ。今は自分で着付けできない日本人の方が多いと思うよ」との私の返答に、「着物はあんなに美しいのに、自分で好きに着られないなんて悲しいね」と彼女は眉尻を下げ、その言葉がずっと私の胸に残りました。
 それまで私は、着物を日常的に着ていたのは昔の時代のことであって、現代では人に着付けてもらうのは当たり前だし、そもそも着物に興味もなかったし自分には関係のない世界のことだと思っていました。しかしアメリカ人のクラスメイトはそれを悲しい事だと言うのです。
 日本の外に出て初めて日本の魅力に気付かされた私は、着物は勿論のこと自国の文化や伝統芸能についてもっと学ぼうと心に誓いました。
 大学卒業後に帰国してまずは着物の着付け教室に通いました。ある程度自分で着物を着られるようになって、次は何か和の習い事に挑戦したいなと思っていたところ、現在お世話になっている教室の先輩にお誘いいただき、詩吟を始める事になりました。子供のころ祖母の剣詩舞を観ていたのでなんとなく親しみがあったこともありますが、詩吟を習うと着物を着る機会が多くあるということ、また漢詩だけでなく和歌も学べるというのが、その時ちょうど百人一首の漫画に夢中だった私には魅力的でした。
 そんな軽い気持ちで始めた詩吟でしたが、簡単そうに見えてとても奥が深く、学べば学ぶほどその難しさが身にしみて挫けそうになることが何度もありました。また私は体調の関係でレッスンをお休みすることも多いため、なかなか上達しない自分に嫌気がさして辞めてしまおうかと思ったこともありました。しかし先生がそんな私をも見捨てず根気強くご指導くださったおかげで、この度のコンクールで入賞することができました。本当に感謝してもしきれません。
 ゆっくりとした歩みかもしれませんが、これからも詩吟という日本の伝統芸能を楽しみながら日々精進していきたいと思います。