令和5年度入選者寄稿文

山田伯峯

第50回クラウン全国大会入賞によせて

 シーンと静まりかえった緊迫感が会場の隅々まで広がるその中、司会の方が滑らかな声で漢詩の入賞者10名を発表している。
自分の名前を呼ばれて立ちすくんだ。
今、確かに私の名前が読み上げられた。
あぁ、夢でないのならクラウン吟士…
 初挑戦は20代の頃と記憶しております。勉強の必要性を感じながらも子育てや仕事を理由に遠ざかってしまいました。自分の時間が出来た頃、宗家である父の勧めで再度挑戦致しましたが、「クラウン吟士」とは高くそびえる山。脚力・準備不足により、途中下山を繰り返して登頂した富士山登山に重なる思いでした。
 私の場合、発声に時間を費やしたように思います。宗家からは常にお腹から芯のある太い声を出すようにと指導を受けましたが、なかなか思うようにいきません。支点を下げるために重い本を数冊持ちながら詠ったり、ダンベルを持ちながら詠ったりと自己流で試してみました。稽古場で生徒さん達と一緒に白虎隊を詠うこともありましたが、数回詠うと声枯れすることもあり、今思えば喉で詠っていたのだと思います。
身体づくりの重要性も感じ、運動を取り入れた生活を心がけた事は体力アップに繋がりました。
加えて他流派の先生から、母音の不明瞭さを指摘していただきました。苦手な母音の高音・低音の克服に努めております。
詩心を表現する技術はこれからの大きな課題です。
本番で緊張してしまう精神的な甘さもあり、未だ思うような吟詠には程遠く勉強中ではありますが、先代宗家・生徒さん・家族の応援があり「この高み」に立たせて頂いたのだと実感しております。
 壇上での賞状授与時、海老沢先生から笑顔で「長かったね」と言葉を掛けていただきました。今、「継続は力なり」とこの言葉を自分に言い聞かせております。
 余談になりますが、今回の全国決戦大会予選での吟詠が不出来だったと自己判断し、着物を着替えてのんびりとしていたところ、「成績がボードに発表されていますよ」と教えていただき、慌てて着付けをし直して決戦に臨んだ次第です。思いがけず頂いたチャンスとなりました。
 夢を見せて頂き実現できたことへの感謝と喜びと、これから未知の世界へ足を踏み入れることへの不安と期待が交錯しておりますが、尊敬するクラウン吟友会の先輩方を目標に、その背中を追いかけて一歩一歩足を運んでまいりたいと思っております。
 よろしくお願いいたします。